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翻訳の管理が必要な理由とは?単なる文章の変換に留まらない包括的思考の確立:戦略的管理

2025.05.14

「翻訳の管理が必要な理由とは?単なる文章の変換に留まらない包括的思考の確立:リスク分析」の記事では、翻訳プロジェクトが単なる文章の変換ではないことをご説明したほか、いくつか複雑なプロジェクトを例に挙げて、効果的に管理されない場合は、翻訳が重複したり、用語が統一されなかったりするリスクが生じ、企業に多大な損失をもたらす可能性があることについて分析しました。
このように、まず最初に問題を認識して、その後に「何をすべきか」に重点を置いて考えることが重要です。では、プロジェクトの責任者は「管理」を通じて、ローカリゼーション・多言語化の効率と品質をどう向上させることができるのでしょうか?この記事では、具体的な「改善のための戦略」に焦点を当てて、より深い分析を行います。

改善のための戦略:ツールの活用と管理の習慣化

翻訳プロジェクトの管理効果を向上させるための戦略は、「ツールの活用」と「習慣化」の2つの側面に大別できます。以下ではまずツールの側面に焦点を当て、最新の翻訳テクノロジーを活用して管理に役立て、課題を克服する方法を探ります。

1. 翻訳支援テクノロジーの活用

現在、市場には、Trados、Phrase、memoQ、Smartcat、XTM Cloudなど、専門的な翻訳支援(Computer Assited Translation、CAT)ツールや翻訳管理システム(Translation Management System、TMS)が数多く存在します。これらのテクノロジーが持つ主なメリットは以下のとおりです。

    1. 翻訳メモリ(Translation Memory、TM)の作成と使用:翻訳メモリは、文章の一部分に対する過去の翻訳を自動的に保存します。将来、同一のコンテンツや類似したコンテンツを翻訳する場合、システムが自動的に過去の該当する翻訳を表示または適用します。これにより、重複して翻訳する必要性が大幅になくなり、効率が向上し、コンテンツのバージョンが変更された場合でも一貫性を保つことができます。
    2. 用語ベース(Termbase、TB)の作成と管理:固有名詞、ブランド用語、重要用語の標準化された翻訳を一元管理し、システム内で自動表示するため、プロジェクトの全担当者が一貫した用語を使用し、プロフェッショナルな印象を保つことができます。
    3. 管理および共同作業のプロセスの改善:多くのプラットフォームがプロジェクト管理機能を提供しており、タスクの割り当て、進捗状況の追跡、異なるバージョンのファイルの管理、複数人によるオンラインでの共同作業やコミュニケーションのサポートなどを容易に行うことができます。また、これらのツールは、.json、.php、.inddなど、さまざまなファイル形式を処理できるため、従来のように文章をWord、Excel、PowerPoint上で整理してから翻訳する必要がありません。これにより、ファイルの整理作業が不要になるほか、整理時の人為的ミスを防ぐことができます。

日常的に大量の翻訳を処理する場合や、プロジェクトが継続性のあるものであったり、複数人による共同協力が必要であったりする場合は、翻訳テクノロジーを導入することで、効率性、品質の一貫性、コスト管理において大きなメリットを得られます。

2. 基本的な管理の習慣化

どのツールを選択するか、あるいはツールを採用するかどうかは、プロジェクトチームの具体的なニーズ、予算、技術的な習熟度によって決まります。専門的なツールを導入しなくても、管理を適切に習慣化することで、以下のようにプロジェクトの結果を大幅に向上させることができます。

  1. プロセスの分割と計画:プロジェクトを特定の段階(例:要件確認 => ファイルの準備 => 翻訳 => レビュー・校正 => 組版 => 最終確認)に分け、各段階の責任者と作業完了予定時間を設定し、シンプルなフォームやプロジェクト管理用ソフトウェアで追跡できるようにします。
  2. バージョン管理体制の導入:明確なファイル命名ルール(例:ファイル名+言語+バージョン番号+日付)を確立します。また、クラウドドライブや共有フォルダを使用して、異なるバージョンのファイルを異なるカテゴリやレベルで管理し、チームメンバーが最新の正しいファイルにアクセスできるようにします。
  3. 共有対訳リスト(Glossary)の作成:管理ツールをまったく使用しない場合であれば、シンプルなExcelフォームやGoogleスプレッドシートを使用することがプロジェクトの管理において役立ちます。重要な固有名詞、ブランド用語、標準化が必要なフレーズと翻訳を正確に文書化し、プロジェクトの全担当者がそれに従うことを義務づけることで、事後のチェック、統合、修正にかかる負担を大幅に軽減することができます。
  4. 定期的な見直しとコミュニケーション:円滑な見直し体制を確立するために、特定のコミュニケーション・確認ポイント(例:プロジェクトのキックオフミーティング、進捗の中間確認)を設定します。これにより、問題を早期に発見・解決し、各プロジェクトから学びを得て、将来の改善につなげていくことができます。

これらの基本的なスキルは、優れた翻訳管理の基礎となります。利用可能なリソースやプロジェクトの規模にかかわらず、良い習慣は、より体系的に翻訳の課題に取り組み、期待どおりの結果を達成するための第一歩となります。

Project Kick-off Meeting
Photo by Headway on Unsplash

包括的な計画に基づいて専門家のサポートを求める

翻訳プロジェクト管理では、「包括的思考」と「プロセスの最適化」が重要となります。管理を効果的に行うことで、作業の重複を避け、一貫した品質を確保し、コミュニケーション効率を高めることができ、より専門的でニーズを満たす翻訳を実現することができます。
フリーランスであれ、社内管理者であれ、上述した管理上の概念を採用したり、適切な翻訳テクノロジーの導入を検討したりすることができます。
しかしながら、大規模で複雑な多言語翻訳プロジェクトに直面した場合や、社内のリソースや専門知識が不足している場合においては、言語サービスプロバイダー(Language Service Provider、LSP)の専門的サポートを受けることが理にかなった選択となります。

言語サービスプロバイダーを選択する理由

経験豊富な言語サービスプロバイダーは通常、以下のような機能を備えており、翻訳を管理する上で直面する可能性のある課題に体系的に対処することができます。

  1. プロフェッショナルなプロジェクト管理チーム:言語サービスプロバイダーには、さまざまな種類のローカリゼーション・多言語化などの翻訳プロセスに精通した経験豊富なプロジェクトマネージャー(PM)が在籍し、クライアントに代わって最適なプロジェクト計画を立案し、リソースを調整して、スケジュールとリスクを管理します。
  2. 高度な翻訳テクノロジーの活用:プロフェッショナルな言語サービスプロバイダーは、CATツールやTMSプラットフォームに精通しており、翻訳メモリや用語ベースを効果的に作成・管理・活用することで、言語資産の価値を最大化し、一貫性と効率性を長期的に保ちます。
  3. 厳格な品質管理プロセス:翻訳そのものに加えて、言語サービスプロバイダーは通常、独立したレビュー、校正、テストプロセスを設けており、複数のレベルでの管理を通じて翻訳の品質が要件を満たしていることを確約します。
  4. 翻訳者と専門家の豊富なリソース:言語サービスプロバイダーは、翻訳者のグローバルなネットワーク、ならびに多様な人材を選出するための確立されたシステムを有しています。これにより、プロジェクトの言語や専門分野(法律、医療、テクノロジー、マーケティングなど)に基づいて、最適な候補者をマッチングすることができます。
  5. ファイルとバージョンの適切な管理:言語サービスプロバイダーは、複雑なファイル形式や更新された複数のバージョンのファイルを処理して、最終的に納品されるファイルの正確性と完全性を保証することができます。

つまり、言語サービスプロバイダーは翻訳そのものだけでなく、プロセス、テクノロジー、人材、品質管理を網羅した包括的なソリューションも提供することができます。ご自身の主要な業務に集中したいとお考えの場合、プロフェッショナルな言語サービスプロバイダーに依頼することが合理的な選択となります。複雑な翻訳管理業務を専門家に任せ、専門家チームが安定した高品質の翻訳を保証することで、ビジネスの促進にかかる労力を長期的に軽減できます。
また、プロフェッショナルなプロバイダーからより詳細な翻訳管理のアドバイスを受け、適切な管理戦略を策定することもできます。翻訳プロジェクト管理において包括的なアプローチを取ることは、当面の問題解決だけでなく、ブランドのコミュニケーション力と国際競争力を向上させるための重要なステップにもなります。
言語サービス業界で30年以上の実績があり、翻訳サービスの国際規格であるISO 17100を取得しているLinguitronicsは、さまざまな分野にわたる豊富なプロジェクトの経験を有しています。翻訳プロジェクトに関するご相談がありましたら、当社までお気軽にお問い合わせください。


‌著者 | Yahan Chang

Yahan Changは、2023年よりLinguitronics Co., Ltd.のブランドおよびカスタマーサクセスディレクターを担当し、お客様の言語サービスおよび技術サポートに対する要望を満たすよう、最適なソリューションの提案に努めています。また、これまでLinguitronicsのプロジェクト管理、リソース管理、翻訳レビュー担当チームのトレーニング、ブランドPRおよびマーケテイングなどの業務に勤しんできた経歴を有します。Yahanは他にも、英語とフランス語の翻訳者として、各種ビジネス文書や書籍の翻訳プロジェクトに携わり、4年間にわたり書籍の出版および編集を経験しています。

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